アートと無意識の世界

人のこころには、「意識」の部分と「無意識」の部分があります。
人は自分の意思で行動しているつもりでも、かなりの部分、自分では意識できない無意識の影響を受けています。

意識と無意識の世界

無意識の世界を発見し、心理療法に役立てたのがフロイトやユングです。
フロイトは、道徳に反する願望や、受け入れがたい感情は、意識の世界から無意識の世界に追い出されると考えました。

くさいものにはフタをする・・・といったところでしょうか。
受け入れられない願望や感情にフタをして、無意識の世界に追い出すことを「抑圧」といいます。

人は、社会生活に支障をきたすような願望や感情を、抑圧しがちです。

例えば・・・
・会社に行きたくないけれど、休むわけにはいかない。
・いじめられてて嫌だけど、自分の中でがまんする。

休めば良いのに・・・周りの人はそう思うかもしれません。しかしそこには、休むことによる不安や恥、使命感などといった、本人なりの理由があります。

無意識に抑圧された感情は、形を変えて、人の心身に影響を与えます。会社や学校に行きたくない・・・と無意識に感じていると、その場所に近づくとお腹が痛くなったりします。

この場合、痛み止めのくすりを飲んでも解決にはなりません。原因は心の奥底、無意識にあるからです。

無意識からの影響がひどくなったのが「トラウマ」です。
過去に起こった受け入れがたい現実とそれにまつわる感情。それを無意識に抑圧することにより何とか心を平穏に保ってきた。
しかし、抑圧された感情は無意識の世界に残っています。それが何かのきっかけで鮮明に思い出されてしまう。抑圧の怖いところです。

トラウマまではいかなくても、いじめや失恋などで感じた嫌な感情を、無意識の世界に抑圧することもあります。そして、押し出したと思っていた嫌な感情が、人間関係に影響を与えたり、恋に臆病になったりと、人の行動に無意識から影響を与えるのです。

夢やアートには、無意識があらわれやすい

ふだんは意識できない無意識の世界。それがあらわれやすい場所があります。

ひとつは夢。
夢の世界では、時間や場所、登場人物、ストーリーなど、
起きてから考えるとつじつまの合わないことだらけです。

寝言を思い浮かべてください。普段は意識の力で言わないようにしている「本音」の感情が、ポロっと出てしまったりしますよね。
寝言と同じで、夢には、無意識の感情や欲望が表に出てきやすくなります。寝ているあいだは意識の力が弱くなるので、
無意識が表に出てきやすいのです。

もうひとつ、無意識があらわれやすい場所があります。
それは、アートです。

アートには言葉がいりません。

自分の気持ちを言葉で表現しようとすると、そこには意識が必要です。

前後の内容につじつまが合うように気をつけたり、相手が理解できる言葉を意識的に選んだりするためです。
当然、自分で意識している内容しか言葉にはできません。

しかし、自分の気持ちをアートで表現するのなら、意識はそれほど必要ではありません。気持ちをイメージのまま、絵に表現すればいいのです。
アートは、意識の関与が少なくてすむ分、無意識が現われやすくなります。

アートは夢と同じく、無意識に近づく一つのきっかけです。
アートが夢と違うところは、「他人が客観的にみることができる」所です。

無意識とアートセラピー

無意識を発見し、心理療法に役立てたのが、フロイトやユングです。

フロイトは心理療法の目的を「無意識の意識化」としました。夢分析や自由連想(*)を用いて、無意識に抑圧された感情を意識化することにより、心の病が治ると考えたのです。

*自由連想…心に浮かんだ内容をすべて話してもらう方法。連想に抵抗を示したとき、そこに問題の核心があるとして、無意識の奥にある問題を意識化していく。

アートセラピーにもこれと似た側面があります。無意識に抑圧した本当の感情を、「アート」で表現することにより、問題を解決します。

表現した後に、「アートに現われた無意識を分析し、しっかりと向き合って克服する」、という作業が必要なときもあります。

しかし、多くの場合、「表現するだけ」で気持ちが楽になります。

アートを楽しむこと。それは、無意識の世界と共存することなのかもしれませんね。

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