アートセラピーの歴史と始まり

心理学の始まりとアートセラピーの歴史を紹介します。

心理学・臨床心理学の始まり

1879年:近代心理学の始まり

心理学が学問として成立したのは1879年、ドイツのヴント(Wundt,W.)がライプニッヒ大学に実験心理学研究所を設立した時とされています。

アメリカでは1890年に、アメリカ心理学の父とされるジェームズ(James,W.)により『心理学の原理』が公刊されました。

ちなみに、フロイト(Freud,S.)がウィーンで開業医となり、自由連想法を確立し『精神分析』と命名したのが1886年。ユング(Jung,C.G.)とフロイトが出会ったのが1907年のことです。

1920年代:臨床心理学の始まり

はじめて「臨床心理学(clinical psychology)」という言葉が使われたのは1896年のことです。
アメリカの心理学者ウィットマー(Witmer,L.)がペンシルヴァニア大学に世界で最初の心理クリニックを開設した時ですが、その中身は現在イメージされる臨床心理学とは程遠いものでした。

本格的な臨床心理学が台頭したのは1920年代、第一次世界大戦が契機となります。

ウッドワース(Woodworth,R.S.)が考案した神経症尺度の質問紙や、ターマン(Terman,L.M.)らによるアメリカ版知能検査(スタンフォード・ビネー)が、兵員の採用のために活用され普及しました。

この知能検査はフランスのビネーが考案したものがアメリカで改良されたものです。

このように心理学の歴史では、ヨーロッパで哲学から生まれた心理学が、アメリカで発展し、日本や世界に伝わったという大きな流れがあります。

アートセラピーの歴史

1940年代

はじめて「アートセラピー(art therapy)」という言葉が使われたのは1951年。イギリスの芸術家ヒル(Hill,A.)が、絵を描くことの治療への応用を説明するためにアートセラピーという言葉が使われました。

ヒルは結核患者のサナトリウムで、アートを用いたグループ療法を行っていました。

同時期、アメリカニューヨークでも、マーガレット・ナウムブルグ(Naumburg,M.)によって精神科の患者の治療のために、アートセラピーを行い、心理療法としてのアートセラピーが確立しました。

ナウムブルグはアメリカアートセラピーのパイオニアと呼ばれています。

この頃、第二次世界大戦が起こります。

オーストリアからアメリカに亡命してきたエディス・クレイマー(Kramer, E.)は子どもを中心としたアートセラピー研究し、治療としてのアート(Art as Therapy)の立場を取りました。彼女はアートセラピーの発展に大きく貢献し、アメリカアートセラピーの第二のパイオニアと呼ばれています。

イギリスでは、ヒルの下で働いていた芸術家のエドワード・アダムソン(Adamson,E.)が、兵役引退後すぐに病院の精神科患者を対象にグループアートセラピーを始めました。彼のアートセラピーのスタイルはその後多くの精神病院で取り入れられます。彼は後の英国アートセラピスト協会初代会長となり、イギリスアートセラピーの父と呼ばれています。

1960年代

アートセラピーが社会的な立場を確立していった時期です。

1964年に「英国アートセラピスト協会(BAAT:British Association of Art Therapists)」が設立され、1969年には「米国アートセラピー協会(AATA:American Art Therapy Association)」が設立されました。

心理学の分野では、精神分析と行動療法の二大勢力に加えて、第三勢力「人間性心理学」が台頭し、アメリカのアートセラピーも影響を受けています。

1970年代

アメリカでは、大学や大学院でアートセラピーのコースが増えていきました。

この時期に設立されたアートセラピーの専門トレーニングを終えた人々が、正規の教育を受けたアートセラピスト第一世代を形成していきました。

1980年代

アートセラピストの教育と職域が確立していきました。

アートセラピーの中にもさまざまな学派が生まれ、精神分析・人間性心理学・認知行動療法など、それぞれの分野を基にしたアートセラピーに発展していきました。

1990年代

アートセラピーの国際化が進み、世界各地でアートセラピーの学校や協会が設立されました。

ショーン・マクニフやパオロ・クニルを中心に、アートセラピー・ダンスセラピー・ミュージックセラピー・ドラマセラピーなど、それぞれ独自に発展してきた芸術療法を統合し、治療に役立てる動きが出てきます。

この動きは、来談者中心療法のカール・ロジャーズの娘、ナタリー・ロジャーズ(Natalie Rogers)にも影響を与え、来談者中心療法を基にしたアートセラピー「表現アーツセラピー」が誕生します。

1995年には「国際表現アーツセラピー協会(IEATA:International Expressive Arts Therapy Association)」が設立されました。

この頃、心理学の分野では第四勢力「トランスパーソナル心理学」が台頭し、その影響でアートセラピーとスピリチュアルの統合が進みました。

2000年代

2000年代はじめ、日本にも心理学ブームが訪れました。
臨床心理士の資格制度が整備され、心理学科をもつ大学・大学院が急増したのもこの頃です。

アートセラピーも、日本・台湾・韓国・タイ・シンガポールなどのアジア諸国へと広まり、各国独自の協会が設立されました。

参考文献

臨床アートセラピー 理論と実践(関 則雄)
心理臨床大事典(氏原 寛 など)

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